リップヴァンウィンクルの花嫁
あらすじ
派遣教師の皆川七海は「教師」という仕事が好きではありながらも、情熱を持てずに働いていた。それに、コンビニでのアルバイトと、ある子供相手にインターネットのテレビ電話で家庭教師もしていた。 ある日、彼女はSNSで出会った鶴岡鉄也と結婚することになる。 それはインターネットでモノを買うようにあまりにもあっさりとしたことだった。
結婚式をすることになった七海と鉄也。 しかし友人が多い鉄也に比べ、七海には結婚式に出席してくれる親戚も友人も少なかった。 鉄也に“見栄えがしないからどうにかして欲しいと”頼まれた七海。 困った挙げ句「なんでも屋」の安室行舛に代理出席を依頼した。 無事に結婚式が終わったと思った矢先、鉄也の浮気が発覚した。 続けて七海も鉄也の母であるカヤ子から浮気の罪をかぶせられてしまい、家から追い出され、ついには鉄也と離婚する。 家と夫を同時に失い、窮地に立たされた七海に「なんでも屋」の安室は奇妙なバイトを提案する。 最初は結婚式の代理出席であった。そこで里中真白という女性と出会う。 次に依頼されたバイトはオーナーが不在の間、住み込みで屋敷を管理する「メイド」であった。 報酬100万円という額に困惑しながらも七海はこの仕事を受けることにする。 屋敷に向かうと、そこにはすでに結婚式の代理出席バイトで知り合った真白が住み込んでいた。 真白は七海と異なり自由で破天荒な性格であったが、 そんな彼女に七海は好感を持っていく。
そしてふたりの奇妙な生活が始まった。
リップヴァンウィンクルとは
これはアメリカの作家ワシントン・アーヴィングによる短編小説「リップ・ヴァン・ウィンクル」に出てくる主人公の名前です。
愛犬と猟に出た木こりリップ・ヴァン・ウィンクル。山の中で出会った不思議な男たちと酒盛りをした彼は、酔っぱらってぐっすり寝込んでしまいます。ところが目覚めると周りはみんな年を取っていて……。(小説「リップ・ヴァン・ウィンクル」より引用)
お酒を飲んで周りが変わったというのがワシントン・アーヴィングによる短編小説「リップ・ヴァン・ウィンクル」で印象深い描写です。
岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』でも、お酒を飲む描写がたくさん出てきます。お酒を飲むと次の扉を開けた感覚になり空気が一変して変わるように感じられます。
白い帽子
予告編などで出てきた白い帽子。映画の中のsnsの初期アイコン。
これが、何を意味しているのかは、観た人受け手によって感じ方は様々だと思います。
私は、猫を被って、匿名で本当の自分を知ってもらいたいがためにSNSで本音をつぶやく現代人特有の感情に似ているようも感じました。
また、SNSで知り合った人と結婚したり、非常勤講師ですぐにクビになったり、結婚式で参列者を便利屋に頼んだりと
代替えはすぐに効くという、現代社会への皮肉にも感じられました。
個性の希薄化が激しいと言われるこの世の中で、自分という存在をどう表現していくのかすごく深いものを考えさせられる描写でした。
SNSの名前
これは夫との会話で話題になるまでこの名前を使用していました。
クラムボンは、宮沢賢治の『やまなし』という作品の中に出てきます。
やまなし作品の中でクラムボンは泡が消えるかのように儚く消えてしまいます。
七海の結婚生活も泡が消えるかのように急に儚く終わりを迎えます。
クラムボンのつぶやきが夫との間で話題になったので
七海はSNSのアカウント名をカムパネルラに変更します。
カムパネルラは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出てくる人物です。
「カムパネルラ、また僕たち2人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸さいわいのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
この後の真白との関係とリンクしてくるような ・・・・・・
ランバラルについて考えてみるのも面白いかもしれません。
安室がアムロレイのスタンプを使っているのも深読みできて面白いです・・・
仕事について考えさせられたこと
仕事この意味について大変考えさせられました。
真白の葬式後に仕事仲間が「私たち仕事を辞めたら何も残らない」と言っていました。
真白は病気になりながらも仕事に誇りを持ち体が壊れるまで最後まで働きました。
七海は、出会ったことのない女の子の家庭教師だけは辞められないでいました。
非常勤講師をクビになり、コンビニのアルバイトもクビになり、でも、一人の女の子だけが家庭教師の七海を承認してくれる存在になっていました。
自分が自分であるために「仕事」にしがみつく悲哀をうまく描かれていました。
仕事とは自分を表現する身近なものにも感じました。
最後のシーン
真白の実家でのシーンです。
最後に安室と真白の母が裸になって線香をあげるシーンです。
真白の母が初めて真白の仕事生き方を認めたように感じさせる描写ですが、
その前に、真白の母は、死亡保険のお金を頂き、安室は便利屋として死亡保険からマージンを抜いていただいていました。
真白自身は死ぬ前に幸せでもなんでも私はお金で買うと言っていました。
母親の涙すらお金で買うという皮肉を込めているようにさえ感じられました。
終わりに
リップヴァンウィンクルの花嫁、観たくなったでしょうか?
岩井俊二監督作品が私は本当に好きです。
美という言葉がすごく似合う作品を作られる監督さんです。
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