待つ

『待つ』は太宰治の短編小説です。

真珠湾攻撃から日本敗戦の時期のある部分を切り取った作品だと思われます。

タイトルからして恋人もしくは身内が従軍していて帰りを待っていると安易な予測ができますが。違います。

太宰治は小説の中で

『いったい、私は、誰を待っているのだろう。はっきりとした形のものは何もない。ただ、もやもやしている。けれども、私は待っている。』

と書かれています。

 

 

彼女の心にはすごく暗い闇のような不安感を感じました。しかし、それを打破すべくして明るい美しい何かを待っているようにも感じました。

 

私も平凡な日常を送りながら何かを待っている。この少女と似たような感覚にあります。ので深くなん度も読み返している次第です。

 

最後にこの作品でいちばん好きなところの文を紹介します。

 

『私の待っているものは、人間ではないかも知れない。私は、人間をきらいです。いいえ、こわいのです。人と顔を合わせて、お変わりありませんか、寒くなりました、などと言いたくもない挨拶を、いい加減に言っていると、なんだか、自分ほどの嘘つきが世界中にいないような苦しい気持ちになって、死にたくなります。そうしてまた、相手の人も、むやみに私を警戒して、当たらずさわらずのお世辞やら、もったいぶった嘘の感想などを述べて、私はそれを聞いて、相手の人のケチな用心深さが悲しく、いよいよ世の中がいやでいやでたまらなくなります。』

 

この文は、太宰治らしい一文だなと感じました。

 

みなさんは同じような感覚に苛まれたことがあると思います。

人は何重にも猫を被った化け物なのです。

 

 

この本は、文庫本4ページほどの短い作品なので本読むの苦手な方も、是非手にとってみてください。

角川文庫の女生徒にも収録されています。

 

待つ

待つ

 

 

 

女生徒 (角川文庫)

女生徒 (角川文庫)